膨大な87分署シリーズの中でも飛び切りの一品。★★★★
「殺意の楔」 エド・マクベイン 1959 ハヤカワ文庫 キャレラに夫(金庫破り)を逮捕された女がキャレラを逆恨みし、ニトログリセリンの小壜を持って87分署に乗りこんでくる。ニトロを爆発させてキャレラもろとも、いや、87分署もろともぶっとばして死のうというのである。 その肝心のキャレラはその日、次なる殺人事件の謎を追って、1日中、出かけている。その殺人事件捜査の進行状況が並列して描かれる。署内でのニトログリセリンの女の件は「いつ、キャレラが帰ってきて署もろとも吹っとぶか?」というサスペンスだし、外でのキャレラの捜査の件は「犯人は誰か?」という純然たる謎解きである。 その二つのミステリーが一編のなかに同等の比重をもって交互に描かれる。 ニトロ入りの小さ壜を机の上に置かれて(小さな、と言ったって、何しろ、万が一ひっくり返しでもすれば、たちまち大爆発を起こすのである。そしてまた、もしかしたら、ニトロとは真赤な偽り、ただの水が入っているにすぎない壜かもしれない――)、ときにうろたえ、ときにおびえ、ときに自分を勇気づけ、ときに絶望して行く刑事たち。それはもう本当に“手に汗握る面白さ”なのだ。 そして――結末のあざやかさ!
by biomasa
| 2005-01-04 11:37
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