日本ではフランシスの競馬シリーズはこれから始まった。
★★★★★の価値は充分にあります。 「興奮」 ディック・フランシス 1965 早川文庫 「英国、2万ポンドの謝礼、犯罪捜査」。オーストラリアで種馬牧場を経営するダニエル・ロークにとって、その提案は別世界の出来事であった。弟妹たちの親がわりとして夢中で生活を築いてきたロークに、イギリスからやってきた競馬界理事オクトーバー卿は常識外の提案をしたのだ。 最近、英国の障害レースでは大穴が10回以上続いていた。そのとき番狂わせを演じた馬は明らかに興奮剤を与えられた状態を示していた。しかし、厳重な検査をくり返しても何も検出されず、その手口は皆目わからなかった。このままではやがて競馬界の危機にもなりかねない――行き詰った理事たちは苦肉の策を考え出した。イギリスでは顔が知られておらず、競馬に詳しい男を、馬丁として競馬界の裏側に潜入させようというのだ。 弟妹に満足な暮らしをさせてやる、という責任感と満足感の間隙をついて、ロークの心に願望が入りこみ大きくなっていった。自由になりたい、挑戦してみたい、と。 イギリスに渡ったロークが求められたものは、これまでの生活習慣と人格を捨て去ることであった。誠実な青年紳士から一転してならず者の馬丁となったロークは、オクトーバー卿の厩舎で働きながらいかがわしい男という悪評を広めていった。 一方、彼は渡された関連資料のなかから、おぼろ気に浮かび上がってきた名前を摑む。ハンバー厩舎、まともな馬丁なら決して行かない、イギリスで最低の厩舎である。 疑われずにハンバーのもとに入るには更に落ちぶれる必要があった。思わぬ誤解がそのきっかけを作った。オクトーバー卿の愛娘から暴行されたと訴えられ、ロークは卿の激しい怒りを買ったのだ。この冤罪により解雇され、ろくでなしの馬丁となったロークは、ようやくハンバーの厩舎に入り込むことができた。 そこでは、馬丁たちを長期間働く気にさせないために、想像を絶する待遇のひどさが仕組まれていた。奴隷に等しい境遇を選択した自分を悔やみつつも、手を引くことができなかった。やがて、忍耐も限界に達しつつあった彼の所に、厩舎外で調教されていた馬が戻ってきた。帰ってきたその馬は以前とはうって変わって極度に怯え、興奮し、狂わんばかりの状態になっていた。何かをされたに違いない。やはり、真相はここにある。あと一歩と迫ったロークに、ハンバー一味の非情な手が襲いかかろうとしていた――。
by biomasa
| 2004-08-02 10:19
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