検屍官シリーズはどれも傑作です。これは★★★★
「審問」 パトリシア・コーンウェル 2000 講談社文庫 検屍官シリーズ11作目の本作は、「警告」の続編の形をとっている。むろんこれだけで独立した作品だが、話の流れとしては、前作からそのまま続いている。「警告」の最後でケイは狼男におそわれ、危ういところを助かるが、本作はその直後から話がはじまる。 凄惨極まりない連続殺人事件の犯人である異形の狼男、シャンドンはすでにつかまっており、本来ならここで一件落着するはずだ。 ところがそうはならない。逮捕されることと、裁判で有罪になって刑を宣告されることとはちがう。 シャンドンに罪の報いを受けさせるために、ケイらは四苦八苦することになる。その過程でケイ自身が殺人の嫌疑をかけられたり、新たな連続殺人がおこったり、はてはとうに決着していたはずの事件の裏に、思いがけない事実が隠れていたことが判明したりと、話は壮大な広がりを見せていく。 最近、ミステリーの世界はいうに及ばず、現実に起こるさまざまな事件でも、犯罪被害の後遺症が切実な問題としてクローズアップされている。 本作でも、九死に一生を得たケイが、そのおそろしい経験のためにその後いかに苦しまねばならなかったかが、つぶさに描かれる。 おそわれた際に骨折し、ギプスをはめられた腕はいつまでも痛み、ふとした光景やにおいに事件を思い出してパニックに陥る。 犯行現場になった自宅は警察の捜査でさんざん荒らされる。それでもケイのように助かればまだ良い。 不幸にして殺人の犠牲になった場合は、当人はもとより遺された者も計り知れないほどの苦しみを味わうことになる。 たとえ殺されたのが悪人であっても同じだ。コレは本作で作者が伝えたかったテーマのひとつだと思われる。
by biomasa
| 2005-01-14 09:46
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