これも古くなったね、でも今読んでもいいですよ。★★★★
「大空港」 アーサー・ヘイリー 1968 ハヤカワ文庫 「そんな不潔な言い方はいけないわ」グエンがこれほど憤然として言ったことは、はじめてだった。彼女は激怒した。「随分偉ぶった言い方をするわね。まるでいっぱしの男みたいに。私のグラスの中に、身体の中に沈殿物があるんなら、それはあなたのものだということを忘れないでよ。もう少し言い方があるんじゃないかしら。あなたが言う、田舎や町の地味な家庭の女の子といっしょくたにしてもらうのはまっぴらだわ」グエンの頬は紅潮し、目は怒りに燃えていた。 「ああ、君のそんなひたむきなどころが好きさ」と彼は言った。 「じゃ、今あなたがおっしゃったような言い方でお続けなさいな。そうすりゃ、もっとあなたが気に入るような私をごらんになれるでしょうよ」 スチュワーデスのグエン・メイエンは、機長のヴァーノン・デマレストに、 「時たま情事の甘い味がグラスの中に沈殿物をのこすことだってあるのさ」と言われて、怒ったのだ。 ヴァーノンに妊娠を告げるとき、グエンはさりげなく言ったので、彼によく聞きとれなかったらしい。 「君がどうしたって?」 彼が訊き返した。そこで彼女は言ったものだ。 「妊娠よ。に、ん、し……」 こういうとき、男はじつにだらしがない。ヴァーノンにしたって、冗談めかして、 「綴りは知ってるよ」 とは言ったものの、やはり不快の色は隠せなかった。 「確かかね?」思わず口走って、 「情事の甘い味が……」とひとりごちたのだ。
by biomasa
| 2005-01-01 12:36
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